悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
「母上!」ときつい口調で呼びかけ、続いて廊下に現れたのはレオン様。

彼は母親の背に、厳しい視線を向けていた。


「オリビアへの嫌がらせは、俺が許しません」


王妃の衣装部屋には、毎日違うものを着たとしても、二、三年はかかりそうなほどに大量のドレスが収納されている。

それらを一着ずつ点検するのは、気の遠くなる作業だ。

ドレス以外にも靴や帽子、装身具が大量にあるから、一日かけても整理が終わることはないだろう。


確かに嫌がらせに違いない仕事ではあるけれど、親子が言い争いをするくらいなら、私はそれを喜んで引き受けようと思う。

ルアンナ王女の陰から一歩横にずれ、「承知いたしました」と頭を下げれば、「やらなくていい」とレオン様に低い声で止められ、王妃にはフンと鼻を鳴らされた。


私の隣で狼狽しているのは、ルアンナ王女。

歩きだした王妃に、「ルアンナ、朝食室に行きますよ」と呼びかけられた彼女は、すぐに返事ができずにいる。

ここで母に従えば、兄の結婚話に反対の立場であるとみなされそうだと、それを心配しているのだろう。


腹立たしさを歩き方にも表す王妃は、廊下の曲がり角まで進むと足を止め、振り向いてルアンナ王女を叱りつけた。


「なにをしているの! 早くいらっしゃい!」


どっちにつけばいいのかわからないといった様子の気の毒な彼女に同情し、私はそっと背中を押して「行ってください」とお願いした。
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