悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
その後は父の執務室を出て、今度こそ涼しい場所へ行こうと、ひとりで西棟の階段を下りていた。
一階の北棟の書庫はどうかしら?
それとも地下まで下りようか。
まだ地下には足を踏み入れたことはないけれど、そこも涼むにはよさそうな気がした。
考えながら一階の床に足をつけたとき、「オリビア様」と誰かが後ろから私を呼んだ。
振り向いて足を止めれば、くすんだ水色のエプロンドレスを着た若いメイドが階段を駆け下りてくる。
私には見覚えのないメイドで、目の前まで来ると頭を下げてから、白い封筒をおずおずと差し出してきた。
「あの、これをオリビア様にお渡しするよう、申しつけられました」
封筒に名前は書かれていない。
受け取りながら、「誰に頼まれたの?」と問えば、彼女は困り顔をする。
「ええと、その、申し訳ございません。お読みくださいとしか、私には申し上げられず……」
どうやら彼女は手紙の送り主に、余計なことを口にするなと命じられているようだ。
問い詰めれば口を割らせることもできそうな気はするが、それだと板挟みになる彼女が気の毒なのでやめておく。
「わかったわ」と私が答えるや否や、「失礼いたします」と彼女は逃げるように階段を駆け上がって、その姿はすぐに見えなくなった。