悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
周囲に人のいない一階の踊り場で、私は封筒を開ける前に鼻に近づけてみる。

するとチラリと予想した通り、微かに甘ったるいバニラの香りがした。

この手紙の送り主は、ルアンナ王女だということだ。

そうすると手紙には、私を中傷するひどい言葉が綴られているのだろう。


呆れながらも開封して白い便箋に視線を走らせれば、予想外の文面に私は目を見開き、心臓を大きく跳ねらせることになった。

【あなたの大切なお人形は花を愛でに出かけたわ】と書かれていたのだ。


しまったと後悔していた。

アマーリアのドレスを切られたあの日以降、掃除が入る時間以外は常にドアを施錠しておくように気をつけていたというのに、今日は失念していた。

それはきっと、王妃にこき使われて汗だくにされ、暑さで頭がうまく働かなかったせいだろう。


私の親友を勝手に連れ去った王女に怒りが湧き、早く助けに行かなければと慌てる。

あの人形は私にとって唯一無二のもの。

服だけなら作り直せるけれど、顔や髪や体に傷をつけられては大変だ。


花を愛でられる場所というヒントに、すぐに思い浮かんだのは温室だった。

王妃が所有する大きな温室には、年中何百種類もの花が咲き乱れている。

そこに連れて行かれたに違いないと判断した私は、ドレスの裾を翻し、西棟の通用口に向けて駆け出した。

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