悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
絞り出すような声で呟いたレオン様は、その後は目を閉じて、湧き上がる感情と戦っているような様子であった。

唇を引き結び、眉間に皺を寄せて、その閉じた瞼からは薄っすらと涙が滲んでいる。

国王の想いを受け止め、彼の心は今、確かに動かされている。

それを感じ取った私は、ホッと息をつく心持ちでいた。

もう、命を断とうなどと、思わないわよね……。


静かに涙する彼を嬉しく思いながら、私はビセットさんのことも話した。

ここへ私を連れてきてくれたビセットさんは、レオン様が何者であるかを前々から気づいていたのに、知らないふりをしてくれていた。

それはきっと、レオン様の身の安全のためであろう。


王太子がわずかな供を連れて馬を借りにくるなどという噂が広まれば、金目当ての悪しき輩に狙われてしまう。

お忍びでやってくる彼に、ひと時の自由を楽しんでもらいたいという気持ちもあったのかもしれない。

そのことを伝えれば、レオン様は目を開け、潤む瞳に私を映して苦笑いしている。


「俺は、嘘をつくのが下手だな」

「そうですわね。でも、それでいいと思います。きっと正直さも含めたレオン様のお人柄が、人を惹きつけ、皆に愛される理由でしょうから」

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