悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
ニッコリと微笑みかければ、彼もつられたように口元を緩ませてくれたけれど、その視線は私から外されて、弾けた薪に向けられてしまう。

揺れる炎を眺め、「本当にこのままでいいのだろうか……」と独り言のように呟く彼は、まだ完全に迷いの中から脱出してはいないようだ。


もうひと押しだと説得を企む私は、彼と暖炉の間に割って入るようにお尻の位置をずらし、無理やり彼の視界に入る。

「もちろんですわ!」と包帯を巻いた手で、レオン様の左手を強く握りしめ、王太子であり続ける決意を促した。


「あなたに国を守り、導いてほしいと誰もが願っているのです。ですから、死する覚悟ではなく、新たな覚悟をお決めになって」

「新たな覚悟?」

「ええ。下手な嘘をついてでも、国民を騙し続ける覚悟です」


清らかな性根の彼だから、騙すという行為に抵抗があるのはわかっている。

きっと罪深いことだと捉えているのだろう。

しかめられたその顔を見れば、王族の血を絶やしていいものかと、またしても悩みの中に戻ろうとしているのがわかる。

そうはさせまいとする私は、彼の心の荷を軽くしようと考えて、「レオン様」と笑顔で呼びかけた。


「全てを知ったわたくしも同罪です。あなたの罪はわたくしの罪。その重みの半分を背負わせてくださいませ」

「いや、オリビアが苦しむ必要はーー」

「心配しないでください。わたくしは元よりしたたか者ですので、そのくらいのことで心は少しも痛みません」

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