悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
瞬時に頬を赤く染めて、「こんなに大勢の前でおやめください」と慌てる彼女の顎をすくい、レオナルドはわざとニヤリと意地悪く笑ってみせた。


「その願いはきけないな。夜まで待つのが苦しいんだ。これでも精一杯の我慢をして、キスで譲歩してあげているんだよ。だから、目を閉じてごらん?」


レオナルドの手のひらが、恥じらうオリビアの目元を覆う。

するとその時、ワッとひと際大きな歓声が湧いた。

それは仲睦まじい、ふたりの様子に対する反応ではない。

突然バサバサと、鳥が羽ばたく音が聞こえてきて、驚いたふたりが空を仰げば、そこには二百羽ほどの真っ白な鳩が群れとなって飛んでいた。


白鳩だけの群れとは珍しく、いったい、どこから飛んできたのであろうか。

誰もが不思議に思って空を見上げている。


不思議なことはまだあった。鳩は皆、くちばしに同じものをくわえている。

一羽の鳩がオリビアの手の中に落としたそれは、数枚の葉をつけたオリーブの小枝であった。


オリーブの枝をくわえた鳩は平和の象徴とされていて、それを見た群衆は「奇跡だ!」と口々に叫んで歓喜していた。

レオナルドも彼らと同じ思いでいたのだが、オリビアだけは指先でオリーブの小枝を遊ばせながら、なぜかクスクスと意味ありげに笑っている。


「奇跡じゃないわ。これはレオン様の奇術でしょう?」

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