悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
夏の夕暮れは遅く、まだ空には太陽がギラついている。

窓は全開になっているとはいえ、温室内は城内のどこよりも暑いことだろう。

次第に息は速く浅くなり、意識が朦朧としてくる。

椅子に座っていても体が揺れ始め、姿勢を保つのが難しくなってきた。


視線はガラスの扉の外に向け続けているのだが、周囲に人影はなく、木々と石造りの尖塔の外壁が遠くに見えるだけ。

どうして誰も通らないの?
まさか王女に人払いされているのかしら……。


苦しくて、顔を上げていることもできなくなる。

喉が渇いて仕方ないのに、吹き出す汗は止まってくれない。

椅子に横座りし、背もたれに掴まるようにしてなんとか倒れずに持ちこたえていた。


そのとき、遠くの方で誰かが私の名を呼んでいるような気がして、力を振り絞って顔を上げ、ガラスの向こうに目を凝らす。

すると霞む視界には、こちらに向けて走り寄る、見目麗しい貴公子が映った。

あれは……王太子殿下?


解錠されたような音に続き、「オリビア!」と慌てる彼の声を聞けば、私はホッとして体の力を抜く。

アマーリアを抱いたまま、ついに椅子から崩れ落ちた体は、逞しい二本の腕と胸により受け止められた。


「オリビア、しっかりして! オリビア!」


王太子が自ら捜しに来るなんて、王族らしからぬ人のよさね……。

そう思ったのを最後に、私の意識は闇の中に落ちていった。

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