悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
アマーリアに傷も汚れもないということは、彼は意識を失った私を抱えながらも、人形を丁寧に扱ってくれたということだ。

「そういうつもりでは……申し訳ございません」と謝り、「どうぞ」と差し出す。

頷いて受け取った彼は、膝の上にアマーリアをのせて、じっと面立ちを観察していた。


「可愛らしい人形だ。琥珀色の瞳と銀の髪は、君と同じだね。この人形がどうしてそんなにも大切なのかを、教えてくれないか?」


その求めに、私は戸惑いをわずかに顔に表してしまう。

どうしてそんなことに興味を持つのだろうと不思議に思ったからだ。

けれども、秘密にしたい事情があるわけでもないので、私は話しだす。

母からこの人形を贈られた、温かくて寂しい幼き日の思い出をーー。


それは、五歳になって間もない冬の朝。

オルドリッジ家の領地内に建つ大きな屋敷で、私は長椅子に座り、母に絵本を読み聞かせてもらっていた。

家族が集う居間の暖炉には火が入り、部屋の中は暖かい。

オルドリッジ領のこの田舎屋敷に母が帰ってきたのは一週間ほど前で、寄り添って甘えられる幸せに浸っていた。

けれども、その一冊を読み終えた母に言われる。


「オリビア、これから私は辺境伯領に行ってくるわ。戻るのはひと月後くらいよ。寂しい思いをさせてごめんね」

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