悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
やっと母に会えたと思ったのに、もう仕事に出かけてしまうのかと、私は小さな肩を落とす。

そして「ウィルは?」と尋ねた。

ウィルというのは私の弟で、二歳になるウィルフレッドのこと。

前回は弟は連れていったのに、私だけ置いていかれて、余計に寂しく感じたものだった。


「ウィルは小さいから連れていくわ。オリビアは、おじいちゃま、おばあちゃまとここで待っていてね」


今回も私だけ留守番だと知らされたら、幼い瞳には見る見るうちに涙が溜まる。

「私も連れていって」とメソメソ泣き出せば、長椅子に歩み寄った父に叱られた。


「聞き分けのないことを言うものではない。クレアが忙しいことは教えているだろう。それに向こうの政情はまだ不安定だ。危険がないとは言えない。ここに残していくのは、オリビアを思ってのことだと理解しなさい」


母はオルドリッジ公爵夫人であると同時に、エリオローネ辺境伯を名乗っている。

エリオローネ家はその昔、隣国の奇襲にあって領地を奪われ、一族の血も絶えたと思われていた。

しかしひっそりと生き延びていた最後の末裔が母で、身分を隠し、ただの町娘として暮らしていたときに父と出会ったのだ。

それからは父の助力でエリオローネ家を再興し、数度の戦の末にようやく領地の全てを奪還することに成功した。

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