悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
それが、つい昨年のことで、母は辺境伯領のことで手一杯。

私を連れていったとしても、構っている余裕がないことは、幼いながらもわかっているつもりであった。

しかし弟だけは母と一緒にいられると聞かされたなら、ワガママも言いたくなる。


テーブルを挟んだ向かいの長椅子には祖父母が座り、祖母の膝の上にウィルがいた。

祖父母は私に同情的な眼差しを向けてくれるが、『連れていっておやり』とは言ってくれない。

オルドリッジ家の当主は父であり、その意見は絶対で、家族といえども異を唱えてはいけないものなのだ。

事情を理解して仕方ないことだとわかっていても、弟が羨ましく、母と離れる寂しさは五歳の私には耐えがたいものがあった。


父に叱られたため、クッションに顔を押しあて声を殺して泣いていれば、母が隣で立ち上がった気配がした。

もう出かけてしまうのかと、慌ててクッションを離したら、母は飾り柱の陰に隠していた箱を持ってきて、私の前のテーブルにのせた。


「私からオリビアへの贈り物よ。開けてごらんなさい」


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