悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
「なるほどね」と人形への私の想いを理解してくれた様子の王太子は、なぜか哀れむような視線を向けてくる。


「オリビアがそうなった理由が、なんとなくわかったよ」


そうなった、とは……?

目を瞬かせていると彼はアマーリアを枕の横に座らせ、それから私の手を取り握った。

その行為に心臓が跳ねても、私の顔には表れない。きっと淡々としているように見えていることだろう。

燭台の明かりが彼の端正な顔の陰影を際立たせるから、夜中に男性とふたりきりでいることを意識させられ、徐々に恥ずかしくなってきた。

一方彼の真剣な顔に照れは見られず、落ち着いた低い声で諭すように語りかけてくる。


「オリビアは感情を表に出すのが苦手という印象を受ける。この人形が君の寂しさを紛らわせてくれたのかもしれないが、受け止めるだけで反応を返してはくれないからね。話しかける方の顔も、人形のようになってしまうのかもしれない」


その指摘はもっともらしく聞こえても、手を握られた恥ずかしさは引っ込んで、王太子に冷たい視線を向けてしまう。

アマーリアの存在や、人形を親友として与えた母の愛を、批判されたような気がしたからだ。


すると彼は私の手を握ったまま「怒ったの?」と首を傾げる。

無言でいるのがその答えで、王太子相手に睨めつける無礼な私を、彼はクスリと笑った。


「怒っているのなら、それをぶつけてよ」

「王太子殿下に、そのような失礼はできません」

「オリビアの怒りなら、俺は喜んで受け止めよう。君との距離が一歩近づく。そう思うのは君を認めているからであって、人形のことを含め、君の全てに否定的な思いはないと理解してほしい」

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