悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
すると彼は拳ふたつ分の至近距離で、なにかに気づいたようにピタリと止まる。

近すぎる顔は元の距離に戻り、水をゴクンと飲み込んだ彼が苦笑いした。


「ごめん。間違えた。目覚めている今は、自分で水が飲めるよね」


そう言うということは、もしかして……。

カップが私の唇に当てられ、水を飲ませてもらいながら、うろたえていた。

ベッドサイドのテーブルには、病人に水を飲ませるための吸い飲みは置かれていなかった。

寝ている私に水を飲ませたのは王太子で、まさか口移しで……?

その予想に心臓が大きく波打ち、恥じらいが膨らんでいくのを感じる。

しかし動揺が顔に表れる前に、私は思い直した。


ただの花嫁候補者のひとりである私に、王太子がそこまでする理由はない。

ずっと付き添っていたわけでもないだろう。

私が目覚める少し前に気になって様子を見に来て、そのとき私の看病をしていたメイドは吸い飲みを手に一旦退室した、といったところだと推測される。


そう考えて落ち着きを取り戻したら、王太子は私に水を飲ませた後、椅子に姿勢を正して座り直し、「申し訳ない」と突然頭を下げた。


「妹が大変なことをした。兄として謝罪する。ルアンナにはよくよく言い聞かせたよ。五時間ほど話し合ったら、最後は自分の愚かな行為を反省してくれた」

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