悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
ルアンナ王女は長話の合間にカップに口を付け、喉を潤している。

その隙を待っていたかのように、アンドリュー王子が私に話しかけてきた。


「オリビア嬢はスコーンだけですか?」

「え、ええ。そうです。」

「このアプリコットのタルトは美味ですよ。オリビア嬢も召し上がられてはいかがですか?」


にこやかに微笑む王子と視線を交えていても、私の視界の端にはジロリと睨むルアンナ王女の顔が映っている。

会話に入るな、と言いたげだ。

それで少食であることなど、話題を膨らませそうな理由をつけずに、「これだけで十分なのです」と簡単な返事をして俯いた。

視線を外したのは、それ以上の会話をしたくないという意思表示のつもりだった。

私に構わず、王女とだけ話してほしいわ……。

けれども素っ気ない私の態度が、なぜか彼に好印象を与えてしまう。


「そのように頬を染めて俯かれるとは、オリビア嬢は恥ずかしがり屋なのですね。なんて奥ゆかしく清らかな淑女なのでしょう!」


私の眉間に微かに皺が寄る。

頬を火照らせてはいないし、清らかな心など持ち合わせてはいないのに、王子は私を理想の女性像にあてはめるような言い方をする。

私の稀有な銀色の長い髪を「シルクよりも美しい」と評価して、顔立ちについては「これほどに麗しい女性は我が国で見たことがありません」と褒めちぎった。

さらには「なよやかにか弱そうなそのお姿は、今にも儚く散ってしまいそうで、この腕の中で守って差し上げたくなります」と恋心を匂わせるようなアプローチまでしてくる。

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