悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
「これは、ルアンナ王女が編まれたものでしょうか?」と戸惑うような王子の声がする。

「ええ、そうです。アンドリュー様への思いを込めて、ひと目ひと目編みましたの」と答える王女の声には得意げな響きを感じた。

目の荒いレースに透けた王子の笑顔は、今は苦笑いに変わっていた。

褒めどころを探している様子だが、「なんと言いますか、面白みのあるテーブルクロスですね」としか評価できないみたい。

嘘さえつけないほどに、ひどい出来栄えなので、それは仕方ないことだった。


ふたりのやり取りを見て、私は小さくほくそ笑む。

ここが仕返しどころだと確信したためだ。

それまでは無愛想なほどに口を開かなかった私だが、作り笑顔を口元に浮かべて「あの」と自分から王子に話しかけた。


「わたくしもレース編みを趣味としております。ちょうど編み上げたばかりのテーブルクロスが部屋に置いてありますので、お持ちしてもよろしいでしょうか?」


「それはぜひとも、拝見したく思います!」と彼が嬉しそうに言うのを聞いたら、私は王女の許可を求めずに席を立ち、一度退室する。

廊下を足早に進み、螺旋階段を三階へと上りながら、私が席を立ったときの王女の顔を思い出して、薄笑いを浮かべていた。

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