悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
一階に下り立つと、手すりの端に飾られた白大理石の鷲の彫像に手を掛けて、乱された心と呼吸を落ち着かせようとする。

王太子とほんの少し会話しただけで、調子が狂わされる。

陰謀渦巻く貴族社会で生き抜くためには、いつでも冷静にしたたかでいなければならないと教えられているのに、彼の前での私は余裕をなくしてしまうのだ。

これではいけないわ……。


大きく息を吸い込みゆっくりと吐き出せば、気持ちは無事にルアンナ王女への仕返しへ戻される。

背筋を伸ばし、右手に持つテーブルクロスを見てほくそ笑んだ。

しかし無意識に横髪に伸ばした左手が、銀の髪飾りに触れると、私の口元から笑みが消えた。

黒き水面に聖水を垂らされたように、心が波打つのを感じる。

この髪飾りをくれた彼は、あの時こう言ったのよね。

『妹を許してくれてありがとう』

私が仕返ししたことを知ったら、彼はどう思うかしら……。


応接室に戻ると、仕返しに弾む気持ちはすっかり消えていた。

待ちかねていた様子のアンドリュー王子は、私の姿を見て嬉しそうな顔で立ち上がり、テーブルの横に立ってレースのクロスを受け取った。

成り行きを見守るしかできずにいるルアンナ王女は、椅子に座ったままハラハラした顔を私たちに向けている。

テーブルクロスを広げた王子は、目を輝かせて感嘆した。


「なんと見事なクロスなのだ!」

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