悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
大きな手が頭にのせられ、よしよしと撫でられた。

目を瞬かせた私は、戸惑いの中で彼についての考えを巡らせる。

広い王城なので、同じ屋敷に暮らしていても、王太子と出会う機会は少なく、まだ数回しか言葉を交わしたことはない。

彼の気さくさは最初からのもので、それは私に対してだけではなく、どうやら彼の性分のようだ。


父は王太子を高く評価していた。

人徳者で誰からも好かれ、かつ有能だと。

滅多に他人を褒めることのない父の言葉は信じたいが、少々の疑問が残る。

いったい彼は、誰に似たのか……。


若い頃は美女だったという王妃に、耳や髪色が似ていても、性格は逆。

意地悪な王妃を黒とするなら、彼は白だ。


性格は国王に似たのかと言えば、そうでもない。

父が評価するには、国王は頼りなく、王の器ではないということだ。

実際に国政を動かしているのは、王太子と父を含めた一部の有力貴族たち。

十八の頃から政治を担うようになった王太子は、すぐにその才覚を発揮して、今では父らの補佐も必要ないほどなのだとか。


この城に住まうまでは、私は王太子との関わりは非常に薄かった。

式典や晩餐会で挨拶を交わしたことが数回、といった程度だ。

これまで『王太子は頼もしい男だ』という父の言葉を信じていたのだが、今、その認識が揺れ始めている。

ゆくゆくは国王になるという人が、こんなに気さくでいいものかしら……?


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