悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
私がレース編みを始めたのは五歳の幼き頃で、祖母から貴族女性の嗜みとして教わった。

それは私にとって楽しい勉強であった。

母不在の寂しさを忘れるにはうってつけの趣味となり、日々没頭していたら、あっという間に祖母の腕前を越えるほどに上達した。

今、アンドリュー王子に渡したものは、中心に二羽の白鳥を寄り添わせ、周囲に花と蔦の模様をあしらった難度の高いデザインだ。

レース編み職人よりも私が編んだ作品の方が優れていると、自負している。


嬉々としてレースを眺める王子から視線を外して王女を見れば、悔しそうに顔をしかめて私を睨んでいた。

栗色の瞳は今にも泣きそうに、潤んでいる。


その顔が見たかったはずなのに、私は少しも喜べずに心の中でため息をついた。

この私が、得にもならないことを、しようとするなんて……。


王子はテーブルクロスについて褒め言葉を並べ立て、それがすむと今度は私を賞賛した。


「レースを見ればそれを編んだ女性の心がわかると言います。あなたはお姿が麗しいだけではなく、お心も美しいのでしょう。僕はあなたのような嗜み深く優しい淑女を探し求めておりました。オリビア嬢、どうか私のーー」


求婚されそうになったとき、私は「違いますわ」と冷たく鋭い声で彼の話を遮った。


「オ、オリビア嬢……?」

私の雰囲気が変わったように見えたのか、王子は動揺を顔に表し、訝しむような目を向ける。

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