悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
アンドリュー王子はもう、私に目を輝かせてはいなかった。

手に持つテーブルクロスを見つめ、それから敬意のこもる眼差しをルアンナ王女に向けている


少々厚めの唇からは「僕を想って、あなたがこの見事なレースを……」と、独り言のような呟きがこぼれ落ちていた。


ルアンナ王女は目を泳がせて俯いた。

それはきっと、嘘話に感動する王子に対し、ばつの悪さを感じているせいであろうが、恥ずかしがっているように見えなくもない。


私がここにいる必要はもうないだろう。

王子は私への興味を失ったようだし、退室を引き止められることはなさそうだ。

そう判断してドアまで歩く。

ふたりに対してもう一度頭を下げてから、背を向けた。

メイドが開けてくれたドアの向こうへ二歩踏み出したら、「お待ちになって!」とルアンナ王女の声がして、彼女が私を追って廊下に走り出てきた。


せっかくお膳立てしてあげたというのに、そんなふうにバタバタしていたら、淑女だという嘘がばれてしまうじゃない……。

呆れる私はメイドにドアを閉めるように指示して、王女のはしたない姿を王子に見られないようにしてあげた。

私と向かい合って立つ彼女は、頬を赤らめてモジモジとしている。

なかなか話しだそうとしないので、「なんのご用でしょう?」と問いかけたら、潤んだ瞳に私を映してやっと口を開いた。


「あの、さっきはありがとう。それと、今まで色々とごめんなさい。もう二度と意地悪しないわ……」

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