悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
意表を突かれた私は、目を瞬かせる。

性格に難のあるこの王女から、まさかお礼と謝罪の言葉をもらえるとは思っていなかったのだ。

さっきの嘘は、私にとってはなんの得にもならないことだと見なしていたが、そうでもないみたい。

二度と意地悪しないという言葉は、私の利益に繋がることだもの。

もしかして、仕返しをするよりもいい戦果を挙げられたのではないかと嬉しく思いつつ、これまで蓄積していた彼女に対しての不満は、厳しめのアドバイスに変えてお返しした。


「性格を直す努力をされた方がいいと思います。嫁がれる前にもう少し編み物の練習もなさってください。嘘がばれないように」


口の端をほんの少しつり上げてみせたら、王女はムッとしたように頬を膨らませた。

しかし口に溜めた空気はプッと漏れて、彼女の明るい笑い声が廊下に響いた。


「オリビアさんはレース編みがとてもお上手ね。わたくしに教えてくださらない?」

「ええ。お呼びくだされば、いつでもお教えいたします。王妃殿下を扇いで汗だくになるより、ふたりでレースを編む方が楽しそうですわ」


気づけば王女につられて、私もクスクスと笑い声をあげていた。

こんなふうに笑ったのは、随分と久しぶりな気がする。

その前に声に出して笑ったのは、一体いつだったかしら……?


ルアンナ王女を応接室に帰してから、私はひとりで藍色の絨毯敷きの長い廊下を進む。

不思議ね……。

得にならないことをしたつもりが、最後は王女の編み物の先生役という優位な立場を得ることができた。

王女の敵意も消えたし、仕返しをしていないというのに、私の心もスッキリと晴れ渡っているわ。


右手には下手くそなテーブルクロスを大事に持ち、左手は無意識のうちにまた銀の髪飾りに触れていた。

王太子の人のよさそうな笑顔が頭に浮かんで、心の中に疑問を投げかける。

もしこのことを彼が知ったら、なんと言うかしら?

いい対処をしたと、褒めてくださるかしら……。

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