悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
晩夏の夕暮れ前、私はルアンナ王女の私室に呼ばれていた。
二人掛けの長椅子に座る王女と、一人掛けの肘掛け椅子に座る私。
開け放した窓から入り込むぬるい風が、私たちの髪を揺らしていた。
「王女殿下、目をひとつ飛ばしましたよ。そこはこうするんです」
不器用な王女に根気強くレース編みを教えていたら、彼女に「もう」と不満げな声を出される。
それは編み物が嫌になったからではなく、私の言葉遣いに対する文句であった。
「ふたりのときは、ルアンナと呼び捨てていいと言っているでしょう? 敬語もいらないわ」
「そう仰られましても……」
「オリビアとは親しくしたいのよ。友達なのにかしこまった話し方をしてほしくないわ。お願いだから、名前で呼んで?」
この会話のやり取りは、数日前から十回ほど繰り返している。
ついに根負けして「ルアンナ」と王女を呼び捨てれば、ひとつ年上の彼女の瞳は嬉しそうに輝いた。
橋の竣工式にアンドリュー王子を招いたのは、半月ほど前のことになる。
私が編んだレースのテーブルクロスが切っ掛けでふたりの結婚話は無事に纏まり、婚約式の日取りが決まったところだ。
結婚と輿入れは、おそらく来年で、協議はこれからという話を聞いた。