悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
彼女に王太子妃を狙っていると告げたわけではないのに、私の裏側の事情になんとなく勘付かれていたみたい。

その話題を出されたのは初めてのことで、返事に窮して私は黙り込む。

私自身が王太子妃の座を狙っているのなら、彼女の助言に頷くところだけど、そうではないから困るのだ。


レース編みの手は休むことなく動いていても、頭には父の顔が浮かんで、どうしようかと考えていた。

父の指示でこの城に住まうようになったばかりの頃は、王太子妃になってもなれなくても、どちらでもいいという気持ちでいた。

それが今は、できれば避けたいという方へ傾いている。

王太子と関われば戸惑うことばかりで、彼の話す綺麗事と眩しい笑顔が苦手だった。

話さなければいいのかもしれないが、よく廊下でバッタリと出くわす。

一日に二度も出会うこともあって、行動を読まれて先回りされているのではないかと怪しむときもある。

そして今日は初めて、お茶の時間に呼ばれていた。


部屋の隅にある柱時計に視線を向ければ、時刻は十六時半。

あと十分したらここを出なければならない。

王太子とふたりでお茶を飲むなんて、考えただけで緊張して、鼓動が加速する。

それは乙女心ではなく、不安があるためだ。

結果としてルアンナ王女と友人関係になれたとしても、あの日に取った私の行動は、およそ私らしいものではなかった。

意地悪だった王女を助けるようなことをしたのは、間違いなく王太子の影響で、まるで彼の白き心が伝染したかのようだった。

彼のそばにいれば、自分が変わってしまいそうで怖いわ……。

< 66 / 307 >

この作品をシェア

pagetop