悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
別に私はそれで構わないけれど、父の期待に応えられないのは心苦しいことである。

苦手な男性のもとに嫁ぐことへの抵抗感と、オルドリッジ家の娘としての責任が、心の天秤で揺れていた。

父と王太子の顔を脳裏浮かべれば、ひと月ほど前、城内の父の執務室に入ったときのことを思い出す。

久しぶりの父と話していたら、王太子が現れて、父と思わせぶりな会話を始めたのだ。


『それが公爵の望みでもあるのでしょう?』

『読まれていましたか。これも親心ということでお許し願いたい。娘には結婚前に恋を教えてやりたいのです』


あのとき私は、王太子の考えの中で花嫁候補に入れられていることを知った。

それはあくまでも候補にすぎず、王女の言うようにアクベス家のロザンヌ嬢もきっと有力候補であろう。

王太子が私をお茶に誘ったり、会話の時間を増やそうとしているのは、審査しているためではないかと考えた。


私がどんな娘なのかを探っているんだわ。

それならば、なにか粗相でもすれば、王太子妃に不適格だとみなされるかしら……?


家のためにならないとわかっていても、彼への苦手意識は拭えない。

私が王太子妃に選ばれずとも、オルドリッジ家の力が揺らぐわけではないと、自責の念を軽くするための言い訳も思いついた。

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