悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
誰からも好かれる人徳者と言えば聞こえはいいが、八方美人なだけではないか。

あちこちにいい顔をして、自分の信念を持たない人ならば、国の行く末が心配になる。


考えながら、王太子の秀麗な顔をつい見つめてしまったら、彼が困ったように頬を人差し指で掻いていた。


「俺の顔になにかついてる?」


問われて我に返った私は、失礼なことをしたと急いで目を逸らし、「申し訳ございません」と再度謝った。


「なんでもないのです。どうかお気になさらないでください」

「気になるよ。なにか言いたそうな顔に見えたから。悩みごとでもあるの? 午後からでいいなら話を聞くよ」


王太子の日常は忙しいはず。

政務の他に毎日謁見を願い出る者たちが大勢いて、彼はできる限り対応していると耳に挟んだ。

それなのに私を心配し、悩み相談まで引き受けようというの?

優しすぎて、呆れてしまうわ。


私の返答を待っている彼は、人の心にスッと入り込みそうな、柔らかい笑みを浮かべている。

なんとなく私が頷くのを待っているように感じたが、ニコリともせずに断った。


「王太子殿下のお優しいお言葉、痛み入ります。ですが、わたくしはなにも困っておりません。王妃殿下を始め、城の皆様にはよくしていただいておりますので」


「それでは失礼させていただきます」と会釈して、彼を置いて歩きだす。

私のプラチナブロンドの髪に小さなため息がかかった気がしたが、足を止めたりしない。

彼に苦手意識を感じているからだ。

< 7 / 307 >

この作品をシェア

pagetop