悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
窓の桟に片手をつき、考え事をしているのか物憂げな表情の彼は、まだ私が入ってきたことに気づいていない。

視線を前庭に止めて瞬きさえしないその横顔は絵のように美しく、この光景をそのまま額縁に納めて持ち帰り、部屋に飾って鑑賞したい……そんな気持ちにさせられていた。

どこでなにをしていても、綺麗な方ね……。


けれども王太子の麗しさに感心していたのはほんの二、三秒だけで、彼が私に気づいてこっちに体を向けるから、ハッと我に返った。

いけない。まだ言葉を交わす前だというのに、早くも調子を狂わされるところだった。

心をしっかり保たなければ、目的を遂げられないわ……。


表情を引き締め直し、水色のスカートを両手でつまんで軽く腰を落とすと、私はドア前で挨拶をする。


「王太子殿下、お招きいただき光栄に存じます」


すると彼は「硬い挨拶だね」と苦笑いする。

その後には「少しは君との距離を縮められたと思っていたけど、まだ遠いな」と思わせぶりなことを言って窓辺から離れた。


「どうぞ」と王太子自らが引いてくれた椅子は、部屋の中央に置かれていた。

お礼を述べて腰を下ろした私は、ふと違和感を覚える。

白く塗装されたロココ調の丸テーブルと、背もたれと座面の布が小花柄の可愛らしい椅子が二脚のテーブルセット。

これだけが、他の調度類と雰囲気を違えているのだ。

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