悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
濃い茶色と深緑色で纏められた堅実的な印象の応接室は、上質でも装飾は控えめだ。

彼の執務室の隣に位置しているということを考えれば、ここは普段、有識者や有力貴族と国政についてお茶を飲みながら語らう場所なのだろう。

足元に目を向ければ、家具を移動させた跡が絨毯についていて、元々ここにあったものを運び出してから、この可愛らしいデザインのテーブルセットを設置したということがわかる。

それはきっと王太子の指示で、若い女性である私を楽しませようと気遣ってくれたことが窺えた。

私のために、優しいことをしないでほしいわ……。


他人から優しくされると、私はどうしても裏側にある本音を探ろうとしてしまう。

親切にする見返りに、なにを要求するつもりなのかと。

けれども王太子から感じるのは、そのような腹黒さではなく、私と親しくなろうという純粋な希望のみ。

私を座らせ、向かいの席に着席した彼の微笑みは清らかで、私を戸惑わせていた。


使用人は給金のために私に尽くし、オルドリッジ領の司祭だって、献金と保身のために私に聖書を読み聞かせるのだ。

晩餐会などの催しで出会う貴族たちは、私のご機嫌を取ることでいい印象を父に与えようとし、オルドリッジ家の威光にあやかろうとする人ばかり。

そういう人たちの中で育った私なので、裏がある人の方が付き合いやすかった。

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