悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
マナー違反を指摘されるのではなく、感謝されてしまい、出端をくじかれた思いでいる。

私とルアンナ王女が親しくするようになった経緯については、彼は妹から報告を受けたようだ。

そのせいで廊下で鉢合わせるたびに何度もお礼を言われており、王女の結婚話をまとめた功労者のように褒められて、居心地の悪さを感じていた。

あのときの私は、王太子の清らかさに感化されたかのように、少しばかり、おかしくなっていただけなのに……。


「編み物と裁縫は私の趣味です。決して王女殿下のためを思ってお付き合いしているわけではありません」


わざと可愛らしさのかけらもない返事をし、澄まし顔で紅茶に角砂糖をひとつ入れた。

そしてスプーンをカップにぶつけるようにして音を立てて混ぜ、そのスプーンはソーサーの上のカップの手前に置く。

カップの後ろに置くのが正しく、私はマナー違反を次々と重ねていった。


スコーンは割らずに丸かじりして、それを食べ終えないうちにサンドイッチに手をつける。

私の皿には三種類の食べかけのティーフーズがのせられていて、ひと口ずつ順に口をつけるという、はしたないことをしていた。


それでも彼は注意をしてくれず、微笑みも崩れない。

気分を害する様子は少しも見られずに、明るい声色で私に話しかけるのだ。


「編んでいるレースが完成したら見せてよ。ルアンナが絶賛していた君のレースを、俺も楽しみたい。こうしてふたりでのお茶の時間にテーブルにかけるのもいいかもしれないね」

「今編んでいるのはクッションカバーなので、テーブルにかけるのは無理です」

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