悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
どうして彼は、楽しそうにしていられるのかしら……。

つっけんどんな受け答えをしても、無作法を繰り返しても、お咎めの言葉はもらえずに私の表情だけが曇る一方。

こうなったら、お茶を絨毯にこぼそうか。

それとも食べかけのお菓子ののった皿を落とすか、ゲップでもしてみせようかしら……。


粗相のレベルを上げることを思い立ったが、飲食物を粗末にしてはならないと思い直す。

それは母の教えで、他の貴族が食べ残していても同調してはいけないと幼い頃から何度も言われていた。

世の中には一個のリンゴさえ手に入らずに、飢えに苦しむ人もいるのよ、と。

敬愛する母の教えに背くことはできそうになく、結局は皿に取ったものを残さず食べてしまった。

ゲップについては私が恥ずかしい思いをしそうでこちらも抵抗があり、かつ意識して出るものでもなかった。

他にできそうなマナー違反は……。


ニコニコと好意的な視線を向け続ける王太子の前で、私は顔を出さずに焦りながら、膝の上に広げていた白いナプキンで、首すじを拭ってみせた。汗はかいていないけれど。

スプーンを落として自分で拾い、テーブルに頬杖をつき、ティーカップの上にソーサー、その上に皿やミルクポットを積み上げて……。


優雅にお茶を楽しむ王太子の反応を窺いつつ、色々と試していたら、白いナプキンを頭巾のように頭に被ったところで、彼がこらえきれぬといった様子で吹き出した。

肩を揺すってお腹を抱え、大笑いしている。

その様子に驚かされたのは、私だ。

笑わせようという意図はなく、怒らせようとしていたのに……。

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