悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
優しい言葉に、明るい笑顔。そのような彼を前にすると、自分の心が薄汚く思えてくる。

いや、実際に汚れているのだろう。

貴族社会は華やかに美しく見えても、内情は陰謀渦巻く黒き世界。

そこで勝ち続けるには、したたかさが必要で、損得を考えて行動せよと私は父に教育された。

『白き心では、生きられぬ』のだと……。


少し進んで自室の前につき、真鍮のドアノブに手をかける。

開ける前に横目で廊下を確認したが、王太子の姿はなく、ホッとしてドアを開いた。

しかし室内に足を踏み入れて目にした光景に、心が乱される。

「えっ!?」と声をあげ、慌てて駆け寄ったのは、部屋の奥に設置されているベッド。

枕元に人形を座らせていたのだが、その服がズタズタに切り裂かれていたのだ。


「ああ、なんてことなの……」


慌てて駆け寄り胸に抱いた人形は、生まれたての赤子くらいの大きさで、顔は陶製、体は綿を詰めた布で作られている。

プラチナブロンドのまっすぐな長い髪に、琥珀色の大きく丸い瞳。白い肌にほのかに赤い頬と、ぷっくりとした愛らしい唇。

幼少の頃、私に似せたこの人形を母が職人に作らせ、『あなたのお友達よ』と言ってプレゼントしてくれた宝物なのだ。


母のセカンドネームを取ってアマーリアと名付けた人形を隅々まで確かめ、切られたのが服だけだと知る。

そのことに安堵の息を吐き出した。

服だけなら、まだ許せる。
服は母からの贈り物ではなく、私が手作りしたものだから。

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