悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
すると左手の上には、持ち手のない銀製の小さなカップが三つ、重ねられた状態で現れた。

驚きはしたが、拍子抜けといった気持ちがあることも否めない。髪飾りではなかったからだ。


今日は、それをくださるの?

水がふた口分しか入らなそうだし、飾るにしては装飾性が低い。

使い道がなさそうなカップね……。


けれども、それは私への贈り物ではないようだ。

彼は器用な手つきで、カップをテーブル上に伏せて横並びに置く。

そして上着の袖を少しまくり、中に着ているブラウスの袖からトルコ石をあしらった金のカフスボタンをひとつ外すと、それを真ん中のカップの中に入れてみせた。

なにをする気なのだろうと、興味深く私が見つめる先で、彼は楽しそうな顔をして言った。


「これから三つのカップを動かすから、カフスボタンがどのカップに入っているのかをあててほしい。正解すれば、このボタンは君のもの。外したら、俺の希望をひとつ聞いてもらいたい。いいね?」


その問いかけに、私は「はい」と迷うことなく頷いた。

ここからは奇術ではなく、ゲームのような遊びをしようというのかしら。

たった三つのカップの動きくらい、簡単に目で追えるはず。

そう思っていたのだが……。

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