悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
彼はカフスボタンの入ったカップを右のものと入れ替え、そのあと左のものと位置を変えて、「はい、とうぞ」とカップから手を離した。


たった、それだけ?
もしかして、私に勝たせてあげようという優しさなの?

簡単すぎるゲームに戸惑いつつも、左のカップを「これです」と指差せば、「本当にそれでいいんだね?」と確認される。


「え、ええ……」


笑顔は時としてポーカーフェイスになるものなのだと知る。

人あたりのよい笑みを浮かべる彼を見ても、その心の内を読むことはできなかった。


彼はまず真ん中のカップを持ち上げる。

そこは当然空で、わかっていたことなのに私はホッとしていた。

次に彼は、私が指した左のカップをつまんだ。

美しくも男らしい手の動きを、私は固唾を飲んで見守っている。

ゆっくりと持ち上げられたカップの中は……あるはずのカフスボタンが消えていた。


「えっ!?」と驚きの声をあげた私は、椅子から腰を浮かせて手を伸ばし、勝手に残りのカップを開けてしまう。

しかしそこも空で、「どこにいったの!?」と目を丸くするばかりだった。

すると正面から、好意的な響きのこもる明るい笑い声を聞いた。


「君は驚くと、素直な反応を見せてくれるね。嬉しいな」

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