悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
自嘲的な笑みを浮かべてドアへと歩き出した彼に、『嘘をついてはいないのに』と心の中で呟いた。

社交辞令的な挨拶に聞こえたのかもしれないが、本心でないとは言いきれない。

奇術を拝見できたのは、楽しかったわ……。


王太子が紳士的にドアを開けてくれて、私は廊下に出てから彼に向き直り、もう一度頭を下げる。

長い髪がサラサラと前に流れたら、彼の指が私の髪をすくうように触れた。

驚いて顔を上げると、男性にしては長い睫毛に縁取られた青い瞳が、いつもより暗い色に見えた。

それはおそらく夕日が届かない薄暗い廊下のせいだと思われるけれど、寂しそうにも感じられる。

「今日は、俺が贈った髪飾りをつけていないね」と残念そうに指摘され、「あっ」と呟いた私の胸に、ばつの悪い思いが込み上げた。


銀のバラの髪飾りは、ここへ来る前に外した。

着ているデイドレスにポケットが付いていないため、胸の膨らみの間にそれをしまっている。

つけるもつけないも私の自由でいいはずなのに、なぜか後ろめたい気持ちにさせられて、外さなければよかったと後悔していた。

「明日はつけようと思います」と視線を逸らして答えれば、彼はクスリと笑った。


「オリビア、見て」


右手を顔の前に持ち上げた彼は、なにもない空中から魔法のように、一輪の白いバラの花を取り出してみせた。


「君の美しい髪を飾るには物足りないけれど、今はこれで許して」

そう言ってバラに口づけてから、私の横髪にそっと挿してくれた。

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