悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
化粧を直して、梳かした横髪に銀のバラの髪飾りを留めれば全ての準備が整った。

メイドを帰してひとりになった部屋の中、鏡台に映る着飾った自分の姿に目を止めて、ふと不思議に思う。

私はどうして、張り切って支度をしたのかしら……。


苦手意識を持つ人との外出ならば、憂鬱であるべきなのに、今日は朝から浮き足立っている。

このドレスは適当に選んだわけではなく、昨日から考え抜いたものであるし、普段はあまりつけない香水を、首筋に少量振りかけもした。

落ち着かないこの気持ち。平常心を崩されることは嫌いなはずなのに、そこに不快感は伴わない。

こんなふうにおかしな気持ちになったことが、過去にもあった気がするけれど、それはいつのことだったろうか……。


首を傾げて鏡台の椅子から立ち上がり、ベッドの枕の横に座らせているアマーリアを腕に抱いて、椅子に腰を下ろした。

心に湧いた疑問の答えは、アマーリアが教えてくれる。

ああ、そうよ。私はこうしてアマーリアの髪を撫でながら、落ち着かない気持ちでいたことが何度もあったわ。

お母様が辺境伯領からお戻りになるという知らせを聞くと、ソワソワして、幼い私は平静ではいられなかった。

早く会いたくて、胸を高鳴らせていたのよ……。

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