悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
「地下はワインの貯蔵や、使用していない備品を補完するための部屋がある。それだけではなくーー」


夏には涼しく過ごしやすいため、応接室や晩餐室、遊戯室や客間もあるそうだが、三十年ほど前から客人を案内することはないそうだ。

その理由について彼は「幽霊が出るという噂があってね」とサラリと話した。


「幽霊……」

彼の言葉を繰り返した私は、なにをくだらないことを言うのだと呆れていた。

怖いと思う心がなにかを見間違えて、幽霊だなどと言い出すのだ。

死んだら魂は天に昇るもので、地上にとどまったりしないのに。

幼い頃に夜を怖がった私に父がそう教えてくれて、そのおかげなのか今は少しも恐怖を感じなかった。


幽霊を信じていないことは、私の表情から伝わったのか、彼は横目でチラリと私を見た後にクスリと笑って「俺は信じてるよ」と言った。


「ここに本当に幽霊が住み着いているのかは分からないけど、死しても心を天に昇らせない者がいてもいいじゃないか。遺した子を心配する親心であったり、恋人を想う深い愛情であったり。そういう理由なら、温かくてロマンチックだと思わない?」

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