悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
彼が信じる幽霊とは怖い存在ではなく、温かくてロマンチックな亡き人の想いなのか。

彼と私はやはり考え方がまったく違う。

私にはそのような発想はできないけれど、素敵な話だと思っていた。

そんなに優しい幽霊なら会って、なにが心残りなのかを聞いてあげたいわ……。


幽霊話のせいで滅多に使われないフロアだといっても、使用人たちが手を抜かずに掃除をしているようで、廊下を見る限りでは清潔そうに思えた。

地上階と同じく藍色の絨毯敷きの廊下に、金装飾の施された飾り柱。

柱の間の壁にはずらりと絵画が飾られ、まるで画廊のようだ。

廊下の角をふたつ曲がって進んだ先は、行き止まりになる。


そこで彼はズボンのポケットから、見慣れぬ形の鍵を取り出した。

軸が角ばって、頭には王家の紋章である双頭の鷲が彫り込まれた立派な鍵だ。

それを使って突き当たりの扉を開けた彼は、私の背に手を添えて、中へ入るように促した。


そこは六角形の小部屋だった。

布張り椅子がふたつのテーブルセットと、燭台がひとつ。それと暖炉がある以外の調度類はなにもない。

ただ装飾性は高く、天井はドーム型で天使のフレスコ画が描かれ、壁紙も柱も技巧を凝らして飾り立てられていた。

使用目的のわからない不思議な部屋には、もうひとつ首を傾げたくなるものがあった。

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