悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
簡素な服はメイドの手伝いがなくても簡単に着ることができて、時間はかからない。

髪を結わえる紐も用意されていたので、ひとつに束ねてから木綿の頭巾を被り、ドアに向けて声をかけた。


「終わりました。どうぞお入りください」


すぐに入ってきた彼は、後ろ手にドアを閉めて鍵までかけると、青い瞳を細めて好意的な笑みを向けてきた。


「似合うと言ったら、失礼かな。でも悪くない。なにを着てもオリビアは美しい」


褒められたようだけど、この服に不満のある私は喜べない。

「ありがとうございます」と淡々と答えて、目を逸らした。


テーブルに歩み寄る彼は、男性用の粗末な衣装を手に取る。

それで私はドアへと歩き出した。

次は彼が着替えるという話だったので、廊下に出ていようと思ったのだ。

けれども、真鍮のドアノブに手をかけたところで「出たら駄目だよ」と注意され、振り向くことになった。


「たまに掃除の使用人が廊下を通ることもあるからね。その姿を他の者に見られては困る」

「で、ですが……」

「俺の着替えがすむまで、後ろを向いていて。見られても、俺は別に構わないけどね」


思わず頬を熱くしたのは、ウインクされたからではない。

その麗しい顔と同じように、服の下の体もさぞや美しいのだろうと、想像させられたからだ。

一瞬だけ鑑賞してみたいという気持ちが湧いて、慌てて彼に背を向け、心の中で自分を叱る。

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