悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
常に心を乱さず冷静に。人の優しさを疑い、したたかに生きてきたはずの私が、今は彼を信じて暗闇の中に足を踏み入れていた。

ふと幼い頃を思い出す。
こんな私でも、かつては胸を高鳴らせることがよくあったような気がして。

屋敷にこもって、厳しい家庭教師から勉強を教わるだけの退屈な日々の中、自室の窓から見える空に珍しい鳥や、変わった形の雲を見つけては、なにか素敵なことが起こる前兆かもしれないと、胸を弾ませていたのだ。

そうだ、私はそういう娘だった。

懐かしいこの気持ち。根拠もないのに、素晴らしい出来事が私を待っているはずだと純粋に信じるこの感覚。

それは成長した今の私の中からは、すっかり消えてしまったものだと思っていたのに、まだ残されていたのね。

知らなかったわ……。


王太子は体を横にして、隠し通路の中に入っていく。

彼に手を繋がれている私も、そのすぐ後に続いて同じように横歩きで暗闇を進んでいた。

まっすぐな道ではなく中でくねくねと蛇行していて、方向感覚を失ってしまいそう。

それでも不安は湧かない。

しっかりと繋がれた手を頼りにして、ゆっくりと通路を進むこと数分で、やっと開けた場所に出た。

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