メガネ男子と虹の空
 社会人にもなると誰しも公の表情を作れるようになる。
 驚いたからっていつも目を見開くとは限らない。

 相手のことを知れば少ない変化を読み取れるようになるけれど、当然私と樽見さんはそこまでの間柄ではないわけで、このとき生まれた沈黙がなにを意味するのか、樽見さんが声を発するまで気が気ではなかった。


「どうしよっか」

 信じてもらえないだろうけど、艶っぽいニュアンスを含ませる意図はなかった。でも、かわいく思われたいって感情が猛烈に湧いてきた。
 わけもなく涙ぐみそうになりながら、ああここは私のコメントはいらないなってだんまりを決めこんでいると、
「行こう」
と、樽見さんが言った。

「行こうってどこに」
「ん。ああ、本屋寄っていい?」

 古典漫画なら背景に木枯らしがぴゅーっと吹くところだ。揺さぶるだけ揺さぶっておいて放置とは、さすが眼鏡をかけているだけある。頭のキレる人はやることが違う。


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