メガネ男子と虹の空
 横並びというよりやや後をついていく形で訪ねた大型書店では、文庫本フェアが行われていた。夏との差別化を図りたいのか秋のと銘打ってあり、推理小説が多い。樽見さんは平積みから上下巻の時代小説を選んだ。

「お薦めはどれ?」

 推理物は一冊を読み終えるのに時間がかかってしまうから敬遠しがちだけれど、私でも知っている著名な作家の作品があったので薦めた。

「この人の話は好きです。映画がおもしろかったから」

 軽く頷くと樽見さんはその作家の本を手に取った。新刊の帯がついている。

「でも映像化したのはその本じゃないですよ」
「読んだら貸すよ。感想を訊いてみたい」

 まるで次の約束みたいだとぼんやりしていたら、事もなげに言った横顔がこちらを向いた。

「これもう読んだ?」
「ううん。あ、ごめんなさい、言い方」

 いいよ、という声がこれまでで一番柔らかく響いた。そしてこう続いた。

「ため口のほうがかわいい」


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