メガネ男子と虹の空
 人の流れも大通りに近づくにつれて煩雑になってきて、小ぶりながらも立派なねぶたのようなものがあると思ったら、本当にねぶたなのだと樽見さんが教えてくれた。

「青森で使われたのを買いあげているんだそうだ」

 相槌を打つ間もなく、人の密度が急に増えた。こっち、と樽見さんが手を引いて誘導してくれた。満員電車ばりの人いきれを抜け、ほっと息をつく。
 樽見さんがじっと見おろしていた。

「あの。なにか?」
「ん」

 真正面から見あげると、樽見さんは顔をしかめて露骨に顔を背けた。樽見さん、と私はなおも呼びかける。

「具合でも悪いんですか」


 副島さんってさ、と祭りの喧騒から目を戻して樽見さんは言った。

「ニブいって言われない?」
「ニブいはないです。鈍感ならありますけど」
「一緒だろ」

 ふっと気の抜けた笑みを浮かべる樽見さん。保っていた完璧さが崩れた。暖かい表情だと思った。瞳に万灯の光がはねている。

「だって、私の勘違いだったら恥ずかしい」
 白状した。
 デートですかと訊かれて否定しなかった理由も、見つめつづけると視線を逸らす理由も、同じであってほしい。
 さすがにそこまでは伝えられなくて黙っていると、
「俺のほうが恥ずかしい」
 樽見さんも言った。

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