最後の花火
「ふーん。デートとか行かないんだ?」

「は?」

 今度は言葉に詰まった。時間がたってから、ようやく、
「そんな相手いないから」
と言った。

 雰囲気を盛り下げてしまった。紗菜の心を気まずさが満たしていく。
 ふーんと言うだけの朝陽をまともに見られない。


 反面、頭の中は朝陽がなぜ紗菜のデートの予定などを聞いてきたのかと疑問でいっぱいになっていた。
 聞くならいまだ。時間をかけちゃいけない。紗菜は朝陽を真似て問い返した。

「デートには行かないの?」
 声が裏返ったが、構わず朝陽をじっと見た。少しの変化も見逃さない覚悟で。


 紗菜の努力は実らなかった。

「サッカー部は秋から大会がはじまるんで、そんなヒマない」


 だいたい紗菜は声の変化に気づくほど朝陽としゃべったことはない。それに朝陽はまた雑誌に目を落としてしまったので、顔色はおろか表情さえ読み取ることができなかった。

 質問の意図はなんだったんだろう、と紗菜は落胆していた。意識して外の景色を眺めた。深い緑色に生い茂った木々。それに紗菜やクラスメイトたちの自転車が見える。
 関心があるから聞いてきたのかと思った。そうでないなら、よくあるご機嫌伺いのような社交辞令ということになる。


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