最後の花火
「紗菜は」
「あ、はい」

 振り返った紗菜は、そこでようやく朝陽がまじまじとこちらを見ていたことに気づいた。

「紗菜はおれにデートの相手がいるのか、気にしてたとか?」


 朝陽はにやりと笑う。どこかずる賢こそうなところの残る笑顔だった。紗菜は活き活きとした目に射抜かれたようになって、息をするのを忘れた。遠いところで誰かの鼓動が聞こえる。それは自分の心臓の音だった。
 
 とっさに言い返すこともできず、視線を逸らしたくても逸らせない。どこに目を向けたらいいのかもわからない。思考のすべてを奪われたように棒立ちになっている。
 急速に顔に集まった熱で、いまきっと自分は赤面していると自覚した。これでは朝陽に見透かされる。

「当たり、か」

 朝陽も朝陽で、一瞬は驚いたように表情が固まったものの、すぐに笑みを取り戻していた。


 沈黙が苦しい。うるさい蝉の声ばかりが聞こえる。紗菜は狼狽しながらも、さぐりをいれるなんてひどいと心のうちで朝陽を非難した。
 そんなつもりじゃない、といまさら言い訳しても信じてはもらえないだろう。

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