最後の花火
「さっき、なんの話してたの」

 自分の思いにかまけていたから、反応が遅れた。希がこちらを静かに見ていた。口元は笑っているが、目が観察する人の目になっている。
 紗菜は警戒した。

「さっき、って?」

「朝陽と部屋にこもってたとき。なかなか帰ってこないねってみんなで話してたんだよね」


 絶句する紗菜。みんなというのは課題に向かっていた面々のことだろうか。朝陽と戻ったとき、不自然な様子はなかった。
 いや、なかったと言い切れるだろうか。戻る直前、紗菜は朝陽の言うことに翻弄されていて、ほかに気を回す余裕などなかった。

 空気を震わす笑いの気配に、紗菜は希を見やった。嘘だから、と軽い調子で言われ、またもやからかわれたのだと気づいた。


「朝陽くんとは、好きな人の話を少ししただけ」

 言ってから、話をちょっと大きくしちゃったかなあと思ったけれど、もう遅い。朝陽が相手だったときと違って、刃向うような態度を取ってしまった。そういうのは紗菜らしくなかった。

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