最後の花火
  *

 午後から紗菜は座敷の隅に移動して、壁にもたれて漫画を読みふけった。サッカー部員たちの話題の切り替わりが早いうえに、会話のなかに知らない人物が次々に登場するので自然とそうなった。

 多くを語らなくても通じる、紗菜だけが知らないあのときとやらの話を急に持ち出しては笑いが沸く。疎外感とも疎外そのものともとれるのを認めたくなくて、紗菜は漫画に没頭したふりをし、読み終えた本の山を高くしていった。


 視線を感じなくもなかった。他ならぬ朝陽の視線。気にしてくれているかも、なんてあらぬ期待をするなんてばかみたいだ。

 そうじゃない。コミュニケーション能力の低い子とでも思っているんだよ。紗菜はふたりきりになったときの朝陽のデリカシーに欠けた発言を思い出して、甘い想像を打ち消した。


 遠くから見ているだけでよかった。
 気持ちを言うつもりなんてなかった。
 誘導尋問みたいなあんなのは告白でさえない。


 帰り道、上り坂に差し掛かったところで紗菜はようやくひとりになった。

 今日は思いがけずそばにいられた。だけど惨めだった。遠くから眺めているだけではわからなかったいろんなことがよく見えた。それがつらい。

 自転車を押しながら泣きそうになった。



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