最後の花火
 課題の問題集が一冊足りないのに気づいたのは、夕食を終えて風呂が空くのを待っているときだった。
 先に明日の学校の準備をしてよかった。まだ十九時をまわったばかりだ。紗菜は自転車を出した。

 明日の新学期に学校で受け取ればいいかとも考えたが、課題を八月三十一日までやらずにいる人物が登校日に持ってきて確実に紗菜に返してくれる保証もない。


「それでわざわざ?」

 再び寺を訪れた紗菜に、幹仁は最初はびっくり顔だった。玄関で突っ立ったまま紗菜を見下ろしている。

「ここにあったらいいかなと思ったのもあるんだけどね。私、誰の連絡先も知らないから、電話もメールもできなくて」

 むきになってペダルをこいだから、紗菜の息は弾んでいる。サッカー部の彼にしてみたら、これしきの運動で疲労をにじませるなんてお笑い草だろう。
 それでも紗菜には気にしなかった。乱れた息を隠す気は起らなかった。

「俺からみんなに話まわしておくよ。明日必ず持ってこいって。そんで、朝一番で紗菜に渡せって。そう言っとく。それでいい?」

 多くを説明しなかったのに、幹仁は紗菜の言わんとしていることを理解してくれた。

「ありがとう。そうしてもらえるとうれしい」

 念のために、と言われて、紗菜は言われるがままに幹仁と連絡先を交換した。


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