最後の花火
 スマートフォンを後ろポケットにねじ込むと、幹仁は小首を傾げてみせた。

「じゃあなに、朝陽の連絡先も知らないの? 今日のこと、どうやって約束したの。朝陽が出しゃばってたけど、希が紗菜に頼んだとか?」

「それは、朝陽くんとたまたま学校で顔を合わせて、直接」

 ああ、とそれだけで幹仁は納得したようだった。

「あいつならやりそう」


 女の子なら見境なく気軽に声をかける人だと言われているようで、紗菜にはあまり楽しくない話だった。
 沈んだ気持ちが顔に出たのかもしれない。

「せっかく来たんだし、漫画の続き、借りていけば? ハマってたよね」

「あ、うん。進化したあの必殺技がどうなのか気になる」
と、紗菜が言い終えないうちにぶはっと噴出した幹仁は、待っててと言い残して奥に消えると、漫画をひとやま抱えて戻ってきた。

「返すのいつでもいいよ。学校で渡してくれればそれでいいし。続きが気になったときはまた俺んちに来ればいいし」

 漫画がおもしろかったのは本当だったが、幹仁には読んでいたときの紗菜の孤独までは察することができなかったようだ。さっき一瞬、勘のいい人かと思ったのにそうでもないんだな、と紗菜は頷くに留めた。


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