最後の花火
 自転車とはいえ家に着くころには汗だくになっていた。入浴を済ませて空調の効いた居間でドライヤーを使っているところに妹が息せき切って飛び込んできた。

「お、お姉ちゃん。玄関に男の人がいる」

「はあ?」

「だから、男の人」

「なんの用だって?」

 新聞の勧誘なら断ればいい、くらいの気持ちで紗菜は妹をあしらった。
 妹は紗菜のまえを動かなかった。

「わかんない。聞いてない。お姉ちゃんを呼んでる。山内さんだって」


 山内と言われても誰なのかわからなかった。教室で飛び交う呼称は姓ではなく下の名前のほうだから、親しい人を除いてはフルネームでは覚えていない。
 行けばわかるかと紗菜はドライヤーを切り、重たい腰をあげた。玄関に立つ人物を見て驚いた。朝陽だった。


「こんばんは」

 はにかんだような表情で朝陽が話しかけてくる。

「はい。これ」

 紗菜がなにか言うより先に差し出されたのは、探していた問題集だった。



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