最後の花火
 本が決まり、下の階の座敷に戻るかと思いきや、朝陽はベッドに腰を下ろした。

 初めて訪ねた男の子の部屋ということもあって、紗菜はなんとなく単独行動をとりづらかった。朝陽ひとりを残して戻っていいのかと躊躇した。
 朝陽はなにも話しかけてこなかった。枕の脇にあったスポーツ専門紙をめくっている。


 こちらからなにかを言うのも少し勇気が必要だった。勇気と呼べるほどのものでもないかもしれないが、このときの紗菜にとっては勇気には違いなかった。仕方なく窓際に移動して朝陽と距離を取り、本を開いたり部屋を見渡したりしていた。

 エアコンが備え付けられていたが、勝手につけていいものかわからなかったし、朝陽に部屋に長居をする気があるのかも判断がつかなかった。これで窓が閉められていたら最悪だったが、幸いなことに開け放たれていたため、体感としての暑さは気にならなかった。
 蝉の声だけがひっきりなしに続いている。



「今日は予定なかったんだ?」

 突然だったので、ひとりごとかと思った。ちょうど朝陽がこちらを向いたところだった。

「うん。外は暑いし、家でだらだらするつもりだった」

 紗菜は正直に答えた。
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