イジワル外科医の熱愛ロマンス
「気にしないで。別に人命に関わるようなことじゃないんだし。あ、そっち。本郷さんの隣、空いてる?」


木山先生はそう言って、私と早苗さんの隣の、二つ向き合った椅子を軽く顎先で示した。


「は、はいっ。どうぞどうぞ」


隣の椅子に置いたトートバッグを移動させながら答える。
すると木山先生は「サンキュ」と言いながら、美奈ちゃんと私の後ろを通った。
足を止めると、配膳カウンターの方に顔を向ける。
そして。


「お~い! 宝生先生、こっちこっち!」


私の隣にトレーを置いてから、軽く手を上げて合図するように手を振った。


「えっ!?」


私も椅子に座り直そうとして、中途半端な姿勢でピタリと止まり、素っ頓狂な声をあげてしまった。


「え? 宝生先生!?」


ほとんど同時に、美奈ちゃんと早苗さんがちょっと声を上擦らせながら、木山先生と同じ方向に視線を向ける。
四人全員の視線を浴びて、トレーを持った白衣姿の祐が、目を丸くして立ち止まっていた。


「席空けてもらったぞ」


木山先生の呼びかけに頷き、祐が足を踏み出してこっちに向かってくる。


「うわ、ほんと! 美奈ちゃんが絶賛するの、納得のイケメンだね……」


別の医局の早苗さんは、実際に祐と対面するのは初めてのようだ。
私の向かい側の席で大きく目を見開き、美奈ちゃんの方にわずかに身を乗り出している。
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