イジワル外科医の熱愛ロマンス
心臓が強く拍動する。
全身に血が巡り、カアッと熱くなるのが自分でもわかる。


「っ、か……」


からかわないで。
そう言って話題を引き取らなきゃいけないのに、その一言が喉に引っかかって言えない。


祐は、私がドキドキと鼓動を高鳴らせているのを、しっかりと見透かしている。
思う存分私の反応を観察した後、フッと口角を上げて微笑んだ。


私の視界を揺さぶるように動くその口元に、私は意志に反して目を奪われてしまう。


「っ……」


ドクッと、一際大きく心臓が跳ね上がった。
祐の唇が動くのを目にして、コンサートの時のキスの感触が、私の中に蘇ってきてしまう。



甘く脳天を貫いた痺れるような疼きが、今もまた背筋を走り、こんな真昼間、みんなもいるのに頬が火照り出す。
そんな私に、両隣と正面から不思議そうな視線が注がれる。


「本郷さん?」


木山先生が私の横顔を見て、首を傾げるのを気にしながら。


「す、すみません! 私、失礼します!」


もう、無理!という気持ちで、私はガタンと音を立てて立ち上がった。
みんなの視線がつられて上に向くのも構わずに、食べ残した定食のトレーを両手で持ち上げ、頭を下げる。
テーブルにクルッと背を向け、下膳台に急いだ。


「雫さん!?」


美奈ちゃんの驚いたような声が背を追ってきたけど、足を止めて振り返る余裕はなかった。
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