イジワル外科医の熱愛ロマンス
医学部棟に戻り、階段を上ろうとしたところで、後ろからグッと肘を掴まれた。
その途端、私の胸がドキッと音を立てて跳ね上がる。


「おい。待てよ」


振り返らずとも、誰だかわかる。
不機嫌そうな祐の声に、私はギュッと唇を噛んだ。


なんで追いかけてきたりするの。
そんな疑問は、すぐに頭の隅っこに追い遣った。


「は、離してください!」


声をあげた途端、チラチラと向けられる視線を感じた。
ちょうどお昼休みが終わる時間だ。
午後の講義開始に備えて教室移動をする学生が、私の声に反応して、こっちを見ている。


受け持ち講義のオリエンテーションを終えた後で、祐の顔を見知っている学生も多いようで、あちこちから「宝生先生」と呟く声も聞こえてくる。
祐も注目されてることに気付き、チッと短く舌打ちをした。


「ちょっと来い」


わずかに身を屈めて私に耳打ちすると、有無を言わせず、階段の前から奥に向かう廊下に進んでいく。


「ちょっ……!」


百八十度近い方向転換が必要になり、足が縺れそうになりながら、私は祐の一歩後を小走りになってついていく。


祐は、一番手前の小教室を後ろのドアからひょいと覗き、誰もいないのを見ると中に入った。
私を引っ張り込んでから、ピシャリとドアを閉める。


それを見て、私は肩を大きく動かして祐の手を振り払った。
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